「ピクニック」 福田知子 印象派の画家で名高い、ピエール=オーギュスト・ルノワールPierre-Auguste Renoir(1841 – 1919)の息子・ジャン・ルノワールJean Renoir(1894 - 1979)の映画「ピクニック」(1936)は秀逸だ。他にも、「素晴らしき放浪者」(1932)、「ボヴァリィ夫人 」(1933)「トニ」(1934)、「ランジュ氏の犯罪」(1936)、「どん底」(1936)、「大いなる幻影」(1937)、「獣人」(1938)、「ラ・マルセイエーズ 」(1938)「ゲームの規則」(1939)など、1930年代のジャンには、傑作が多い。 撮影はクロード・ルノワール 。彼はジャンの兄の俳優ピエール・ルノワールの息子、つまり甥っ子である。クロードは、70年代末まで、多くの映画撮影を担当している。ちなみにジャンの弟の前もクロードという名前で、「ラ・マルセイエーズ」や「獣人」で助監督を務めている。同名の叔父と甥っ子、しかも二人ともジャンの映画に関わっているのだから、ややこしい。言うならば当時、ルノワール一族で映画を制作していた訳である。 印象深いアンリエット役のシルヴィア・バタイユ Sylvia Bataille (1908-1993) は、当時、作家で哲学者のジョルジュ・バタイユの奥さんだった。のちに哲学者ジャック・ラカンと再婚。1985年冬の「季刊リュミエール」第2号に掲載されたプロデューサーのブロンベルジェのインタビューによれば、当時、彼女はブロンベルジェの愛人だったとか。ちなみにブロンベルジュは「ピクニック」の製作を担当しているピエール・ブロンベルジェ Pierre Braunberger (1905-1990)で、主な作品に、「アンダルシアの犬」、「牝犬」、「ゲルニカ」、「我は黒人」、「ピアニストを撃て」、「女と男のいる舗道」、「ミュリエル」などがある。それはともかく、「ピクニック」のブランコのシーンは殊に美しく、ルノワールの印象派絵画を彷彿とさせる。モノクロ映画でありながら、降りそそぐ光、水の音、風のそよぎ、田舎の空気感から、鮮やかな色彩をもクリアに感じさせる不思議な映画である。 ジャン・ルノワールが、フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダールらのヌーヴェル・ヴァーグ、ロベルト・ロッセリーニ、ルキノ・ヴィスコンティらのネオレアリズモ、他にロバート・アルトマンやダニエル・シュミットなど、多くの映画作家に影響を与えたのは周知の通りだが、この映画を観れば、なるほどと頷ける。